元浪人生の大学受験記

元浪人生の雑記。志望校は東京大学文科一類だった

BS世界のドキュメンタリー 外交は国威なり~密着イギリス外交②(Inside the Foreign Office Keeping Power and Influence)を見て

気まぐれでBS1の番組表を見た時に、密着イギリス外交という興味をそそられるドキュメンタリーを発見した。残念なことに1話は放送済みで2話しか録画できなかったのだが、とてもおもしろい内容だったので記事にしようと思う。

さて、英国外務省と聞いて、あなたは何が思い浮かぶだろうか

外務・英連邦省ネズミ捕獲長パーマストンだろうか?もしパーマストンを知っているなら彼に部下がいることを知っているだろうか?在ヨルダン英国大使館ネズミ捕獲長アブドゥンのロレンスが彼の部下なのである

それとも今は別館として使用されている旧アドミラルティビルを思い浮かぶだろうか?

旧インド省のダーバーコートを思い浮かべるだろうか

三枚舌外交だとか言う人間は...正直合わないのであまり関わりたくない。いわゆる三枚舌外交ー英国のオスマン帝国領に関する外交だが....あれは三枚舌外交なのでなく、3頭外交とでも言うべき代物だ。対アラブ、対ユダヤ、対英仏をそれぞれ別の部門が行ったため矛盾が生じうる外交になったのであって、騙そうとしたわけではない。そんな状況から矛盾が生じないようにきちんと解釈し直した英国は流石と言える

まずこの番組はボリス・ジョンソン前外相が2018年にダーバーコートで就任後の訓示をしているところから始まる。内容はロシア政策の見直しについてや、グローバルな英国が求められる中、外相は看板であり、大事なのは外務省職員のスキルと専門知識であるといった内容だ。

次に外務事務次官サイモン・マクドナルドへのインタビューへと移る

記者:優れた外交官の定義とはなんでしょう?大使とは嘘をつくために外国に送られる人物だなどと言った人もいるとか

事務次官:なるほどそうきましたか。後ろにその言葉を残した人物の肖像画がありますよ。この事務次官室は長い間に様変わりしましたが、あの肖像画だけはずっとここに掛かっています。Sir Henry Wotton、17世紀のイギリス大使です。ラテン語でこう言い残しました。Legatus est vir bonus peregre missus ad mentiendum rei publicae causa(大使とは自国の利益のために嘘をつくべく外国に送られる正直者のことだ)

事務次官:この言葉には実は3つの意味が隠されています。当時のlying、嘘をつくという単語には、怠ける、騙すと言った意味もありました。更にもう一つ、いろんな相手と寝るという意味もあったんです。この解釈を巡ってWottonは国王と対立し一時的に職を失いますが、優秀な外交官は後始末も上手です。結局無事に復職しました

事務次官:世界におけるイギリスの役割はこの150年で根本的に変わりました。第一次世界大戦が始まるまでイギリスは世界のトップ最強の国威を持つ国と誰もが認める存在でした。しかし第二次大戦後はアメリカとソ連が大国となって影響力を振るい、イギリスはその現実を受け入れざるをえなくなりました。それから70年が経ちますが、今も同じ第二グループです。積極的に発言し超大国に影響を及ぼす力を持っていますが単独では大したことはできません

肖像画を見てこの言葉がパッと出てきたのであろう記者は、これが記者だということを私に認識させてくれた。会話のきっかけとしては十分な出だしだ。

ここで、英国の外交観と英国外交の現状というものが視聴者に分かる構成となっていて、とても素晴らしい。この後舞台はニューヨーク、英国国連代表部に移る。

 

ここでまず興味深いのは、国連大使にトランプについてどう思うか、外交官として答えてほしいという質問だ

マシュー・ライクロフト大使曰く、彼は優れたホストで国連や多国間外交についてのアメリカのアプローチを説明してくれ、国連は改革が必要、可能性に満ち溢れているがもっと機能させなければと話しており、それには賛成である。

次いで安保理の話になるが、露中と対立するのは先刻承知のことだが、中でも露とは世界の見方が異なっているという発言は、グレート・ゲームの時代からの英国の本音だろう。かれこれ200年近く、英国はロシアと対立し続けてきた歴史がある

世界のルールに従わないロシアと、ルールを作る英国、対照的な二国だ

その後はロシア外相とジョンソン外相の会談や安保理でのロシアとの折衷などを密着取材し、ロンドンの外務省へと舞台がもどり、インタビューの続きが始まる

記者:外交は一種の芸術でしょうか?

事務次官:ええ。誰にでもできるわけではありませんし、誰もがうまくやれるとは限りません。ただし、生まれつきの才能というわけではなく、徐々に上達していくものです。ごく簡単にいうなら、外交とは相手をこちらの望み通りに動かすアートです

 

キエフにいるウクライナ大使へのインタビューが始まり、彼女への密着取材が始まる。

国家の数を子供に尋ねられた時、それは難しい質問だと答えていたのが印象的だ

彼女はウクライナ東部の紛争地帯へ訪問し、状況を確認する

再び舞台は国連へと移り、おなじみのBBCニュースのオープニングが流れ、国連の議題がロヒンギャにうつったことが話される。ミャンマーに関してはかつてミャンマーを植民地統治していた英国が安保理での議論を主導している。ミャンマー国連大使を招いた非公式の昼食会などが行われ、英国がどのようにミャンマー問題を解決しようとしたのかが語られる。英国本国と在ミャンマー英国大使のやり取りや、在ミャンマー英国大使への取材で構成されるが、一部で事務次官へのインタビューが挿入される

事務次官:国に繁栄をもたらすことが常に政府の大きな任務の一つでした。言い方を変えれば国民が世界中で安全にビジネスを続けられるようイギリス政府は長い間世界で積極的に活動してきたのです

事務次官:時には人権保護と経済的利害が対立する場合もあります。我々の基本姿勢としては、その対立に見て見ぬふりはしません。相手国との合意形成をはかる。経済関係と同時に人権問題の対話も続けますよという姿勢です

ミャンマー大使への取材もまた面白い。任命の際の事務次官との会話が印象に残った。英国とミャンマーの関係を特別な関係で結ばれたと言っているところが面白い。その後再び事務次官へのインタビューが挿入される

記者:外交官は相手国への関与と自分に正直であることどう両立すべきなのでしょう

事務次官:私は相手国と関わりを深めることがその言い分を聞くことになるとは思いません。積極的な関与は不可欠です。それなくしては相手が何を考えているかわかりませんしどうすれば相手に影響を与えこちらの望み通りに動かせるかもわかりません

その後舞台はミャンマー大使館へと移り、ミャンマー大使への取材へと戻る

その後、BBCニュースのオープニングが流れ、スクリパリ事件が起きたことを伝え場面が変わる。対露関係が悪化し、国連代表部が国連でどのように対処したかが語られ、事務次官へのインタビューの中で結果が語られる

事務次官:最終的に30ヶ国近くがイギリスの対露制裁に同調しました。合計150人のロシア人外交官がそれらの国や国際機関から国外退去を命じられたのです。これはロシアの計算にはなかったことです。ロシアは外交上の敗北を喫したのです

記者:ニュース番組を見た時、ご自分がその渦中にいると感じますか?

事務次官:毎日そう感じています。私達は大きな問題を扱っているので、自分の仕事の内容を話すだけでディナーパーティーの客の関心をやすやすと引くことができます。会話を独り占めするなと妻がテーブルの下で足を蹴ってくるかも。でも、みんな何が起きているのか知りたがっています。中東の動き、アメリカやロシアや中国との関係、気候変動、海のプラスチックごみ、現代の奴隷労働、全て我々の仕事、いうなれば歴史に関わっているんです

記者:パーティーでそれを話すんですか?

事務次官:私は外交官ですよ?優れた外交官は相手に秘密を明かしていると思わせるんです。相手は後で思い返して聞いた時は面白いと思ったけれど大した中身はなかったと気づく

記者:つまり具体的な材料は何も与えないってことですね?

事務次官:そういったのは君だ

記者:『君がそう考えるのは自由だが私はコメントできない』ですか?

事務次官:人気ドラマ(キリング・イヴ)のセリフだね?

記者:あのドラマの省庁の描き方はどうです?

事務次官:あんなに殺人は起きないよ

このインタビューで番組はおわり、エンドロールに移る。英国版を見ると此処から先も少し続くようなのだがカットされているのが少し悲しく思う。

結局のところ、事務次官のインタビューは外交だけでなく普段の日常生活において役立つだろう。どうしたら他人との関係を良好にし魅力的な人物になれるのか、考えさせられた番組であった。私にとって本来主目的であった英国外交の裏側も面白かったが